中高一貫教育に全寮制は必要か?

全寮制の中学・高等学校

先日、海陽学園に関するニュース記事を読みました。『海陽学園は日本で一番学費の高い中高一貫校と言われていますが、その理由は「全寮制」を採用しているためです』という内容です。

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記事内容とは直接関係はありませんが、良い機会ですので中学・高等学校が全寮制を採用する意義について考えていきたいと思います。

 

公立高校との比較

まず、全寮制である海陽学園と一般的な公立高校を比べてみます。 

  海陽学園 公立高校
授業時間 40コマ/週 34コマ/週
部活動 全員加入 任意加入
ゲーム 禁止(※1) 学外では自由
漫画 禁止(※1) 学外では自由
携帯電話 禁止(※2) 学外では自由
食事 クラスメイト 家族、友達等
休日の過ごし方 校内イベントが多い  自由
異性との交流 困難 自由

 

 (※1)記事によると、ゲームや漫画は「寮内では」禁止と記載されていましたが、学内で許容されているとは考えにくいためゲーム・漫画は一切利用できない環境ではないかと考えられます。

(※2)携帯電話は学内・寮内ともに使用禁止で、学校が管理しているとのことです。

以上の表だけでも、海陽学園では学習時間こそ充分に確保されているものの公立高校と比べると遊べる時間や行動範囲に大きな差があることがわかります。

娯楽の時間を捨ててまで全寮制の中学・高等学校に通うメリットはどのような点にあるのでしょうか。

 

全寮制で「規則の中で他者と折り合いを付ける力」を養成する

海陽学園の中島校長曰く、現在の学生に足りていない能力は「人間力」であるとのことです。ここでの人間力とは、「規則の中で他者と折り合いを付ける力」を意味しています。人間力を養成するためには規則に従い集団生活を営むことが必要であるという信念のもと、海陽学園では全寮制を採用しているとのことです。

たしかに、社会では様々な規則に従わなければならないことが多く、また、気の合わない人と仕事をする機会も少なくありません。社会で人間関係を良好に築くためにも、中高生時代から寮の規則やクラスメイトと折り合いを付ける経験を積み、自己主張をしない許容範囲の広い人間を育てる意義はあるのではないかと思います。

しかし、そのような環境では、自分の頭で物事を考えて行動できる次世代のリーダーは育ちません。

なぜなら、規則を与えることで中高生が思考停止をしてしまうためです。規則に縛られた環境から、既存の価値観に縛られずに物事を多角的に捉えられる次世代のリーダーを生み出せるとは到底思えません。

ゲームや漫画などをはじめから規制するよりも、これらの利用を認めた上で、成績や生活態度が芳しくない中高生に適切な規制を作るほうが教育的であるように思います。中高生と学校側がトコトン話してお互い納得する規制を作るプロセスにより、他者と折り合いを付ける力が育成されるのではないでしょうか。

 

まずは、自己主張をする力を

中高生が養成するべき能力は、他者と折り合いを付ける力よりも、まずは「自己主張をする力」です。

「何で寮でゲームをしたらダメなの?」という疑問に対して学校側が「これは規則だからダメだ」と答えるようであれば、中高生は思考停止状態から抜け出すことができません。

学校側が「ゲームよりも読書感想文を書く習慣を身に付ける方が皆さんの論理的思考力が鍛えられるのでゲームは禁止します」と具体的な主張を行い、中高生が「皆で協力しなければクリアできないゲームを通じて協調性を磨きたいので週に一度だけはゲームをさせて下さい」という屁理屈を返せるくらいの自己主張能力こそ、次世代を担うリーダーに求められるのではないでしょうか。

学校が規則をコロコロと変えるわけにはいきませんが、生徒の状況により臨機応変に変えられる規則を設けることができれば、自己主張能力が養成され、議論を重ねるプロセスのを経て「他者と折り合いを付ける力」が身に付くのではないかと思います。

 

学校の多様化が教育を支える

「どのような人間を育てたいか?」というビジョンを具体的に語る学校が増えれば、学校に多様性が生まれ、教育の質は向上していくのではないかと思います。そして、ビジョンを実現するための「全寮制」であれば、ビジョンに共感した保護者が子どもに入学の選択肢として勧めるはずです。

「グローバル人材」や「協調性」など聞き心地の良いキーワードを並べているだけでは高偏差値の学校から順番に志願者が集まる現状は変わりません。これから生き残る学校は、社会的背景を的確に捉えて、育てたい人物像を語り、具体的な活動と実績を示し続けられる学校であるように思います。