EdTech JAPAN Pitch Festival vol.3
先日、教育とテクノロジーの融合イベント ”EdTech Japan Pitch Festival vol.3” が開催されました。脳内整理を兼ねてまとめていきたいと思います。
(文中の「」内は発言内容を要約したものです。発言者の意図を完全に汲み取れていない可能性もありますので、予めご了承下さい。)
詳細
- 日時:2013年9月13日(土)16:00~19:00(19:00より懇親会)
- 場所:デジタルハリウッド大学大学院
- 参加費:一般1000円(懇親会参加で3000円)学生無料(懇親会参加で2000円)
- タイムテーブル
時間 | 当日の流れ |
16:10 ~ 16:20 |
主催者挨拶(デジタルハリウッド大学院 佐藤昌宏氏) |
16:20 ~ 17:05 |
Pitch前半
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17:05 ~ 17:35 |
パネル・ディスカッション 登壇者
モデレーター
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17:35 ~17:45 | 休憩 |
17:45 ~ 18:30 |
Pitch後半 |
18:30 ~ | 閉会・懇親会 |
主催者挨拶(16:10~16:20)
佐藤「EdTech JAPAN Pitch Festival vol.1 から一年が経とうとしています。この一年間でEdTech(Education × Technology)関連の企業は総額約8億円の資金調達に成功しており、EdTech分野はまさに黎明期であると言えます。しかし、起業家のアイデアがユーザーに本当に必要かどうかは常に自問自答する必要があり、現在、さまざまなスタートアップ企業にヒアリングを行っているところです。」
(ヒアリング内容は後日共有していただけるとのことです)
途中、海外のインターナショナル・スクールに通う8歳の女の子にスカイプインタビューを行いました。彼女はカーンアカデミーで1次方程式を学んだり、コードアカデミーでプログラミングを学びWEBサイトを制作したりしているそうです。全ての小学生がこのようなオンライン学習を活用しているわけではありませんが、学び方が根本的に変わりつつあることを実感する瞬間でした。
Pitch前半(16:20~17:05)
(1)アオイゼミ(代表:石井貴基氏)
アオイゼミは、コミュニケーションを通じてオンライン授業を受けることができる中学生向けの学習サイトです。
石井さんがアオイゼミを立ち上げた理由は、ICTの活用があらゆる費用を下げてきたのにも関わらず、教育費が全く変わらない現実に問題を感じたからだそうです。アオイゼミは毎日1500人以上の中学生が利用しており、これまでの総再生回数は約56万回に上ります。ライブ授業は無料受講できるのですが、授業録画動画や授業ノートを利用したい場合には有料(最大でも5000円)になるフリーミアムモデルを採用しています。
ただ、いくら無料で授業が受けられると言え中学生が自主的にパソコンの前に座り毎日勉強するというものでもありません。既存のeラーニングでも、「授業がつまらない⇨継続できない⇨成績が上がらない」という悪循環が生まれています。
そこでアオイゼミでは、授業内コミュニケーションに着目して、授業中に質問したりスタンプを送信したりできる機能を整えました。勉強のための勉強ではなく全国の仲間とつながるために勉強をするというスタンスが評判を呼び、「コミュニケーションを通じて学ぶから授業が楽しくなる⇨継続できる⇨成績が上がる」という好循環を生み出しています。
今後とも、インターネットで安く学べるという発想ではなく、コミュニケーションを軸とした新しい勉強スタイルを提供していきたいとのことです。
(2)Oops! Study(代表:小原大樹氏)
「?」という一枚のスライドをもとにOops! Studyの開発理由を話していただきました。
小原さんは、小学生時代から学校の理不尽なルールに悩まされながらも、入学したときに購入したゲームや友達と遊ぶ時間に支えられて学校に通っていたそうです。高校時代に自身の学校教育への考えを先生に話すように努めたものの、学校の仕組みが変わることはありませんでした。
現在では「狭い教室に人を押し込んで先生の話を聞くという既存の教育システムは正しいのだろうか?」という既存の教育システムへの疑問を持ち、海外の動画を独自の視点でまとめた学習サイト Oops! Study(現在150コース、1200本の教材を提供中)を制作しているとのことです。
(3)ripple kids park(代表:三富裕哉氏)
オンライン英会話レアジョブをパクってではなく参考にして開発したとのことです。
オンライン英会話の存在を知りさまざまなサービスを利用してみたものの、ご自身の英語力が低すぎてレッスンが成立しなかったとのことです。「初心者向けが必要なのでは?」と感じたものの、初心者はオンライン英会話よりも本やラジオで勉強するだろうと考え、子どもにフォーカスすることにしたそうです。
大人は英語学習の目的が明確ですが、子どもはそうではありません。そこで、子どもたちが「先生が大好き!早く授業受けたい!」という気持ちになるよう授業に工夫を凝らしてユーザーを獲得しています。
しかし、オンライン英会話が100種以上あるなかで、子ども向けサービスは片手で数えられる程度しかありません。その理由として、
- お客さんがふたりいる(親と子ども)こと
- フィリピンに離職文化があること(先生が辞めると子どもも辞める傾向がある)
- 対面式英会話の重要度が高いこと
パネル・ディスカッション(17:05 〜 17:35)
登壇者
- サカモトハルヒコ氏/フリーランス、「サウス・バイ・サウスウェスト」運営
- 佐久間健光氏/某メディア企業、EdTech Media 開設
- 澤山洋平氏/野村リサーチ・アンド・アドバイザリー
モデレーター
- 佐藤晶宏氏/デジタルハリウッド大学院
テーマ1: どうなる?電子教科書。教育イノベーションは起こるのか?
佐藤「総務省のフューチャースクールや、電子教科書の共通プラットフォームの開発、佐賀県立高のタブレット端末導入、DiTTなど、電子教科書関連の話題は尽きませんが、電子教科書を学校に導入してイノベーションが起きると思いますか?」
サカモト「紙が電子になるだけでは、イノベーションではないと思います。また、年配の学校関係者はタブレットで教育は出来るわけはないと考えているので、その方々にいかに理解してもらうかが重要ではないかと思います。」
澤村「公立学校、私立学校、家庭、塾の4つの可能性を考えたとき、電子教科書を一番導入しやすいのはしがらみの少ない私立学校ではないかと思います。ICTで私立学校を効率化していく過程で教科書の導入が進んでいくのではないでしょうか。また、単なるデジタル化には意味はありません。教え方のスタイルを変えていかなければならず、それは公教育では難しいのではないだろうかと思います。」
佐久間「電子化により、インターネットでつながり競争したり動画を参照したりすることが可能になるので、伸びる能力に多様性は生まれるはずです。」
佐藤「ハードとソフトではイノベーションの起こり方が違うと思うのですが、どちらからイノベーションが起こると思いますか?」
サカモト「サウス・バイ・サウスウェスト・エデュでは、ハードで出ているプレイヤーはほとんどいない状況です。アメリカと比べると、日本はソフトが出揃った感じはしませんね。」
澤村「ハードとソフトという見方も大切ですが、いかにオペレーションに組み込むかを考える必要があるかと思います。現状ハードが話題になっているだけなので、先生が自由にカリキュラムを構築できる制度を同時に整備しなければなりません。」
テーマ2:黒船襲来?MOOC革命は本物か?これからの大学はどうなるのか?
佐藤「無料動画の配信サイトが増えていますが、講義受講の仕組みはどのように変わると思われますか?」
佐久間「言語の壁こそありますが、学ぶ意欲のある子どもには革命的なサービスだと思います。」
澤村「ムークスの価値は、1.授業が無料であること、2.授業が好きなように受けられることだと思います。現在はこの2つが混合して捉えられていますが、この2つはいずれ分かれていくのではないかと思います。」
サカモト「〇〇の日本版というサービスは良くないと思います。カーンアカデミーのようなコンテンツは教育に重要ですが、教員の指導力がないとダメだと思います。これからの指導方法はティーチングではなくコーチングへ変わるのではないでしょうか。」
佐藤「最後に、一言ずつお願いします。」
サカモト「サウス・バイ・サウスウェスト・エデュを来年3月に開催します。世界中のスタートアップが集まるイベントです。まだ受付中ですので、是非参加して世界を目指して下さい。」
澤村「実際にサービスを使いツイッターやブログなどでアウトプットすることが重要だと思います。皆で盛り上げていきましょう。」
佐久間「EDTech関連の話題があれば連絡して下さい。また、一緒に運営してくれる仲間も募集しています。」
Pitch後半(17:45〜18:20)
(4)manavee(代表:花房孟胤氏)
manaveeは誰でも無料で受験勉強ができるサイトで、大学生ボランティア講師が集まり運営しています。
気に食わないこと
- ”お受験”には格差がいっぱい
- 裕福な家庭>そうでない家庭
- 都会の高校生>田舎の高校生
- 教育の機会の均等はどこへやら
- 授業は上手いけれど、口の端にたまるつばが気持ち悪いよね。
- 雑談がおもしろい先生がいいよね。
というように授業技術や知識量とは関係のない点で先生を評価していることが多いのも事実です。
そこで、花房さんは「自分の好きな先生の授業がいちばん良い授業ではないだろうか?」という仮説を立てました。それを実証するため、manaveeでは先生の多様性を確保することで高校生が自分の一番好きな先生を見つけられる工夫を行っています。
manaveeを象徴するキーワードは、
- 内発的モチベーション>金銭的インセンティブであること
- 完全無料であること
- 継続するための新しい仕組みであること
です。「教えられていた生徒が教える立場に」という文化を作っていきたいのですが現時点では確立出来ていないため、これからも引き続き挑戦していきたいとのことでした。
(5)EDUPEDIA(代表:住吉翔太氏)
学校の先生のための教育WEB辞典を開発しているとのことです。
例えば、生徒が誰かの靴を隠したときの対処法や漢字テストなど、教員生活におけるノウハウを共有しようという試みです。現在は月間10万PVくらいで、運営メンバーは関東に35人、関西に15人います。先生の不祥事ばかりが取り上げられる昨今ですが、批判ではなく新しい提案をしていきたいとのことです。
また、ボランティアで運営しておりコンテンツがまだまだ足りていないため、先生や学校、教育センター、教育委員会、大学研究室等紹介していただきたいとのことです。
(6)すらら(代表:湯野川孝彦氏)
すららとは小学生(高学年)から高校生が国語・数学・英語の三教科をインターネットを通じてパソコンで学ぶことができる「対話型アニメーション教材」です。
現在の会員数は25000名で、これまでのeラーニングの形式である「動画配信型」「問題集型」「ゲーム型」の長所を組み合わせた教育システムです。
すららの特徴は以下の3点です。
- 生徒のアウトプットを支援:理解度を確認するため、声優の声をしたキャラクターが授業中に質問をします。どの生徒にも同じような正答率になるアルゴリズムを利用しています。
- 弱点自動判別システム:生徒の理解が足りない部分を特定する機能です。例えば、一次方程式の文章題では、速さの定義が理解できていないのか、方程式が立てられていないのかなどを判別します。
- ゲーミフィケーション:進捗の可視化、地域ランキング、全国の生徒とのつながり、ソーシャルエール機能などが利用されています。点数ではなく総学習時間を重視しています。
また、点数や偏差値ではなく学習時間による評価をしています。学習習慣が身に付いていない25000人が競い合った結果、優勝者の勉強時間は月に200時間だったそうです(毎日平均6時間以上すららを利用していることになります)。
ビジネスモデルとしてはB to B to Cを採用していますが、今後はB to Cを広げていきたいとのことです。また、新興国への進出を考えており、上海やバンコク、ジョホールバルに高品質な教育を安価に届けていく予定だそうです。